「最も黒い黒」と「最も白い白」
こんにちは。金野です。
先日、印刷博物館で行われている「グラフィックトライアル2020」に行ってきました。
トップクリエイターと凸版印刷が協力して、新しい印刷表現を探るという展示で今回で第15回になるそうです。
グラフィックトライアルの趣旨である「印刷の新しい試み」や「印刷表現を探る」や「印刷の可能性」などのキャッチーなコピーを読むと、
どんな展示がしてあるんだろう、どんな表現?仕上がり?と、行く前から妙にどきどき、そわそわしてしまいました。
職業病でしょうか。
昔から紙とかインクとかフィルムとか大好きだったもので、性分なのかもしれません。
私が普段のお仕事で携わる「印刷」では、ミスなく、ズレなく、欠けなく、美しくが求められます。
いわゆる一般的な印刷物ですが、印刷に関わることを生業にしている人でないと「印刷」について、
興味を持ったり、あまり深く気にとめないかもしれません。
とにかく楽しみに、いそいそと会場へ行って参りました。
さて、展示を見に行った時はコロナ禍真っ只中であり、緊急事態宣言中でもありましたので、
展示は無料ですが完全予約制でありました。
会場はポツリぽつりの人集りで、まるで貸し切りのように作品を堪能することができ、ラッキーでした。
例年でしたら、新しい印刷表現のポスターなどは触り放題らしいのですが、
なにせこのご時世ですから、一切手を触れてはならないとのこと。
少々残念ではありました。
新しい表現なのに…!触ってみたいじゃないか…っ!と、
ご来場された同じ職業病のみなさまは悔やまれる方も多いかもしれません。
それを考慮してか、会場側では今回展示しているポスターの切れ端を数枚セットにして
来場者にプレゼントしてくれています。
なんと無料なうえに、至れり尽くせりではありませんか。
少々も残念なことはありませんでした。
展示の詳細は足を運んでみてのお楽しみということで省きますが、
個人的に興味深く印象に残っているのは、「最も黒い黒」と「最も白い白」です。
「最も黒い黒」とは、最も黒いとされる用紙NTラシャ(漆黒)よりも黒インキを5回重ね刷りすることで、
漆黒よりも深い黒になるという実験。
反対に、「最も白い白」は、白いインクをいくら塗り重ねても紙の白さには到底及ばないという実験。
普段のお仕事では同じ色を重ね刷りするということ自体しないので、こんな実験ができたら楽しそうだなと思いつつ、
よく知った黒や白でも単純に単色の色としての扱いではなく、
色の深さについてまで考えられているあたりが同業として妙にくすぐったく、
またひとつの色への考察だけでも奥が深いものだと感じ入りました。
もうひとつ印象に残っている展示は、写真(RGB)から印刷(CMYK)へデータ変換される際の
「避けられない再現領域の変換」を課題にした展示です。
硬質な工具の写真を同じ撮影位置で、ピントを変えたりライティングを変えたりして、
複数の画像からCMYK版を組み替えて印刷を試みています。
絵柄のズレや輪郭のにじみ、不思議なグラデーションのトーンが現れたりと、
普通の写真では表現できないような大変美しいポスターとなっていました。
一見しただけでは工具のポスターにしか見えませんが、工程を知ることで、
なんとも贅沢で手間のかかった実験だと驚愕しました。
その他にも面白い実験がいくつもあり存分に楽しめる展示内容でした。
グラフィックに興味のある方はぜひ、訪れてみてはいかがでしょう。
グラフィックトライアル2020
会期:2021年8月1日(日)まで
https://www.toppan.co.jp/biz/gainfo/graphictrial/2020/